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Blu-ray & DVD 2024.3.27発売!

Special Interview Special Interview

脚本:宮藤官九郎×監督:水田伸生

─コロナ禍を経たことで、結果的に今見ると非常にタイムリーな脚本になっていると感じました。

宮藤:それはよかったです。でも現場で水田さんが僕が書き過ぎている部分を、もっとシンプルにしてくださった部分もあって。例えば木南さんがやってくれたシネのセクハラのエピソードは、もっと具体的に生々しく書いていたんですが、そこを水田さんが少しソフトにしてくださったりとか。

水田:登場人物が何か問題発言をしたら、そのシーンの中で別の人が「それは言い過ぎだから」と即座に否定するという工夫もしましたよね。決して次のシーンにまで持ち越さない!(笑)

宮藤:映画のいいところって、上映が終わるまで映画館から出られないところですね。ドラマと違って、映画を見ながら携帯でつぶやいたりする人はさすがにいないので、最終的に間違ったことを言わなければいいのかなって。

─映画版ではかつて“ゆとりモンスター”だった山岸が、逆にハラスメントで訴えられていたりと時の流れを感じます。

宮藤:太賀くんが素晴らしいなと思うのは、連ドラの1話で会社を訴えてから、3話くらいまでは本当に嫌な奴じゃないですか。でも連ドラのあの短い期間内で、徐々に愛されるキャラクターに変容していく(笑)。普通はあんなことできないし、本来山岸は3話で退場するしかないキャラなんですよ。でもそこは正和と山岸の関係性の変化と相まってギリギリ成り立っているというか、それを映画版でも引き続き作れている2人はすごいなと。

水田:連ドラからの関係性があってこそですね。

宮藤:まりぶについても水田さんからのご提案もあって、正和と山路にたかっている感じは変わらなくていいのかなと。どうしても脚本を1人で書いていると、PCの中で完結しちゃっているから、「そんなことはしたらいけないんじゃないか」と思ってしまうことがあるんです。でも役者さんがやってみると、「別に平気なんだな」っていうのは今回特に多かったですね。”レンタルおじさん”もそうですし。

水田:彼こそ全く変わってないですね(笑)。

宮藤:キャラクターが育っていくというか、変形していくというか(笑)。連ドラでまりぶとゆとりは不倫をしていたんですが、ゆとりはそんなに気にしてなくて、まりぶの方がむしろ気にして引きずっているみたいなあの感じは、いいなぁと。続けてきたからこそ出せる、時間の経ち方だなと思いました。

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―改めてこの豪華キャストについてもお聞かせ下さい。

水田:今や皆さん本当にお忙しい方ばかりなのでよく集まってくれたとは思いますが、全員に出ていただくのは大前提でした。それは宮藤さんの本の力はもちろん、3人の結びつきがとにかく強いんです。僕は岡田将生くんがその真ん中にいたことが、とても大きいと思っています。彼は共演者の魅力を、最大限に引き出すことのできる主演俳優。だって連ドラが始まった当時は3人は初顔合わせで、言ってみれば世代的には完全にライバルですよ。

宮藤:3人とも同世代ですもんね。

水田:だからバチバチにやろうと思えばそんな雰囲気の現場にもなるのに、常に自分のこと以外を尊重する彼の気立ての良さが、すぐに3人で伊勢神宮にお参り旅に行くような仲になるんです。

宮藤:仲いいなぁ。

水田:それを聞いて、「なんで誘ってくれないんですか!?」って太賀くんが怒っていましたが(笑)。それくらい3人のバランスと相性は、想像以上でした。あと(安藤)サクラちゃんが男性が多い現場であれだけノビノビやれたのも、岡田くんの気質、気立ての良さにあると思います。

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―この6年で役者としての3人の成長、変化は感じられましたか?

水田:とてつもなくでっかくなっているなと思います。でも本人たちが作品に愛着を持ってくれているからこそ、これだけ時間が空いても映画化が実現したんだろうなと。彼らの中に誰が主役だとかいう意識が全くなく、3人……いや、サクラちゃん含め4人が同列なんです。太賀くんも当時は弟分だったけど今は主演作もたくさんあるし、吉岡里帆ちゃんもぐんぐん伸びている俳優さん。でも誰ひとり対抗心を持つような関係性じゃないんですよ。その中で大ベテランの吉田鋼太郎さんは、“レンタルおじさん”としてずっと止まって待ってくれているし(笑)。

宮藤:あの役は鋼太郎さん以外はできなかったですね。

水田:今回鋼太郎さんがいなかったら、相当寂しい映画になっていたと思います。実は“レンタルおじさん”は誰よりアップデートされてますからね。ちなみに鋼太郎さんが“豚の民”で酔っぱらって倒れていなくなるっていう芝居は、彼の完全なアドリブです。

宮藤:勝手にやり出したんですか?(笑)

水田:はい。我々も誰ひとり知らされておらず。たぶんギリギリで思いついたんじゃないかな? 冷静に考えたら本当のお酒を飲んでいるわけじゃないから、そんなことあるはずもないんだけど、スタッフもキャストも全員が本気で心配しましたからね。それが芝居って分かった瞬間、キャスト達は本気で怒ってました(笑)。

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―撮影過程で最も大変だったシーンはどこでしょうか。

水田:いつも言っているんですが、大変な撮影はないんです。優秀なスタッフが入念に準備をすれば、撮影は滞りなくいく。ただ!今回驚いたのは、リモート会議のシーン。あそこは画面に映っている人もはめ込みではなく、同時にその場で撮っているんです。そうすることで、芝居の間合いも調整できるので。しかしこれが大変で……。ロケにお借りした建物が持っているWi-Fiの容量を、軽く超えてしまったんですね。

宮藤:あ~、なるほど!!

水田:Wi-Fiを買って持ち込んでも足りないので、スタッフは全員携帯の電源を切り、なおかつその建物で働いていらっしゃる方々にも撮影の本番だけは切っていただくようお願いして。あれはいくら事前に準備しても、その場に行かないと分からないことでしたね(苦笑)。

―現場を拝見していて1カットの長回しが多かったことも印象的でした。

水田:うちのスタッフのやり方は、アングルが変わっても大体通しで(一連で)撮るんです。なおかつキャストの方々が、演劇というどうにも止めようのない世界でも活躍できる人たちばかりなので、そのやり方を逆に喜んでくれて。だからテイクを重ねるシーンによっては、エモーションの上がり方がずれているところはあるんですよ。でもそれは全然構わない。それよりもよい芝居が生まれる環境作りの方が、はるかに大事だと思っています。だからうちのスクリプターは、“繋がり”なんて言わないんです。

―坂間家での正和の演説シーンも長回しでしたが、感動的でした!

宮藤:正和がハロウィンでケガをして家に帰ってくるあの流れは最初から、決めていました。岡田くんがやっているからこその良さが、すごく出ていたなと思います。あそこでの正和は実を伴ってないし、自分勝手な言葉でしゃべるんですが、間違ったことは言ってない。あのシーンに限らず山路が理屈っぽくて、そこをまりぶが一言でストレートに片付けるみたいな、3人の役割がはっきり分かれているから、3人を書くのはずっと楽しくて。今回は実は3人が揃うシーンは少なかったからこそ、3人が揃って屋台で喧嘩しているシーンは「『ゆとり』見てるな」っていう感じがしてすごく好きでしたね。

―今後さらに年を重ねたゆとりたちの姿も見たいと思う人は、たくさんいそうです。

水田:僕はこの映画をご覧になった方は、登場人物たちを好きになってくれると信じています。皆さんのお力を借りて、この先の“ゆとり3人組”をずっとのぞき見したいし、撮りたいですね。

宮藤:僕も3人の定点観測はずっと続けた方がいいと思っています(笑)。

文/遠藤 薫

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