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Blu-ray & DVD 2024.3.27発売!

Production Notes

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『ハングオーバー!』を“ゆとり3人組”で――!?

16年に放送された連続ドラマから7年。翌年に2週にわたって放送されたSPドラマ「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」から6年。熱狂的な“ゆとりファン”を多く獲得した人気ドラマが、満を持してスクリーンにカムバック!6年という決して短くはない月日を経てもなお輝き続ける本作だが、連ドラを率いた水田伸生監督のもとには“ゆとり3人組”を演じた岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥本人達から「また“ゆとり”をやりたい」という声は届いていたという。「でもこの作品は(脚本の)宮藤官九郎さんが企画者。まずは宮藤さんに相談してからでないと始まらないということで、2018年に宮藤さんに直接打診させてもらいました」しかしその時の宮藤の返答は「う~ん」という、イエスともノーともつかないものだったとか。当時のことを宮藤は、「おそらく僕としてはTVドラマとして作ったものだから映画はどうかな?……という想いがあったんだと思います。激しいアクションがあったり、ドラマチックな展開があるわけではないですから」と回顧。だがその直後、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の打ち上げの席で松坂から、「映画『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』みたいな話を、ゆとりの3人でできないですかね?」と相談を受け「なるほど!」と思い直す。「みんなでまりぶのいる中国に遊びに行って、お酒を飲んでワケが分からなくなるほど泥酔する。で、翌朝目が覚めたら誰か1人が欠けている……まんま『ハングオーバー!』ですが(笑)。それなら海外ロケの必然もあって、映画ならではの仕掛けもできそうですが、どうでしょうか?と逆に僕から水田さんにご相談させてもらいました。おそらくですが、3人で話した内容を桃李くんが代表してその機会に提案してくれたのが嬉しかったですね」

異国の地では彼らが”ゆとり”であることは一切通用しない。「ゆとり世代という言い訳が通用しない面白さが描けると思った」と語る宮藤は、早速監督と2人で密にやり取りをしながら脚本作りに着手。今やますます超多忙な人気俳優となった3人をはじめ、メインキャストはほぼ全員が主役クラスの実力者ばかり。ドラマと同じメンバーが再集結するのは至難の業かと思われたが、誰ひとり欠けずに出演してもらうのは大前提だったという。「それは宮藤さんの本の力です。宮藤さんの本でまた芝居がしたいというレベルの高い役者陣が揃ったし、皆さん本当にこの作品を愛してくれている方ばかりなので。ただスケジュールの関係上、(仲野)太賀くんが難しそうだから、中国で山岸が捕まる話にすれば牢屋でひとりだから大丈夫なんて案も出たりしましたね(笑)」(監督)

“インターナショナル(仮)”という副題も付き、脚本を揉んでいく中「トータルバランスで見た時に、あえて海外ロケはせずに国内で”インターナショナル感”を出せないかと。それが”ゆとり”らしいのではないか」という結論に至る。ドラマのラストで中国に渡ったまりぶが帰国したことで巻き起こるストーリーをベースにし、ついに初稿が上がったところでコロナ禍が襲来。一度はキャストの手に渡った脚本だったが、やむなく撮影は延期され幻の第一稿となるのだった。

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コロナ禍を経てアップデートされた脚本

当初20年10月のクランクインを目指していた本作は、2年後に延期。だが延期が決まってすぐキャストへの出演交渉は続け、結果的に予定通りドラマ時からのキャストは全員集合が叶う。同時に脚本も2年の間にアップデート。宮藤にとってコロナ禍をまたいだ唯一の脚本となる。完全なるコメディでありながら、ユーモアにくるみつつ社会問題を鋭く突くのが『ゆとり』シリーズの醍醐味。今回もLGBTQ、ハラスメント、国際問題、SNSとの向き合い方などをしっかりと描き、プラス、コロナ禍で定着したリモートワークを随所に入れ込むなど強烈に“今”を感じさせる仕上がりに。だがケースによってはセンシティブな問題になりかねない面も多く、「これほど大勢の方に本をチェックしてもらったのは初めてです」と宮藤。「最初の脚本から例えばLGBTQの問題は入っていたんですが、この数年で急速に世の中の意識が変わっていったじゃないですか。これは不謹慎になってはいけないし、誤解されても嫌だなと思って自分でも読み返しつつ、水田さんはもちろんたくさんの方に見ていただいて意見をいただきました。LGBTQ、国際問題、ハラスメント問題に関しては、絶対に想像で書いてはいけない部分ですからね」入念なやり取りを繰り返す中、「“正直、これもダメなのか…”と思う部分も最初はありました」とも。「でも水田さんがそこはすごく頑張ってくださって。ひとつひとつを精査して、“ここは捨てたくないんだよな”と僕が思うところを汲んで、ほとんど残してくださったんです。結果的に自分が思っていたより、はるかに修正は少なくてすみました」

年々厳しくなるコンプライアンス問題は当然避けて通れない道ではあるが、「映画は残るコンテンツなので、“今”をクリアすることが全てではないと思います」と監督。「将来を見越して考えていかないと、後々残念なことになるんじゃないかと。我々は“あの時はこうだったな”というのを既に体験しているわけですから」 ちなみに中国の動画サイトで坂間家の日常をこっそり配信しているのは当初まりぶではなく、まりぶの中国人の友人という設定だったそうだが、監督からの「これ、全部まりぶにやらせちゃいませんか?」という提案で今の形に。6年経っても分かりやすく成長しているキャラクターは誰ひとりおらず、「成長ではなく変形に近いですね(笑)」(宮藤)というのもいかにも『ゆとり』らしい。

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豪華キャストが全員再結集&個性派新キャラも参戦!

“ゆとり3人組”は公私ともに親しい岡田、松坂、柳楽がもちろん続投。「久々なので緊張するかなと思ったんですが、現場に友達がいると思うと安心しました。6年という長い時間が一瞬にして埋まりましたね」(岡田)「ここまで安心感がある現場はなかなかないです。3人でいると空気がすぐに6年前に戻りました」(松坂)「自分の中でも本当に大切な作品。同世代の俳優たちと旅行に行ったりするのはこのメンバーくらいなので、また再結集できて嬉しいです」(柳楽)今や日本映画界を背負って立つ存在になりつつある3人に加え、多くの映画賞を受賞し世界に名を轟かせる実力派俳優・安藤サクラ、話題作への出演が途切れない仲野太賀と吉岡里帆、映画界、演劇界になくてはならない大ベテラン・吉田鋼太郎がそれぞれクセの強いキャラクターを嬉々として好演。島崎遥香、中田喜子、髙橋洋、青木さやかといった坂間家の面々ももちろん顔を揃えた。

そして今回新たなキャラクターとして『ゆとり』に新風を送り込むメインキャストが木南晴夏、上白石萌歌、吉原光夫の3人。韓国からやって来たチェ・シネをド迫力で熱演した木南は、韓国語と英語を見事に駆使。「以前スタッフも交えて木南さんと食事をした時に、真剣に韓国語で芝居をしてみたいとおっしゃっていたのが記憶にあったんです」(監督)「シネはセンシティブな問題とコミカルな側面と、その両方が必要な役ですが、木南さんはコメディが上手だから、言語以外の部分が既に保証されているなと感じました」(宮藤)上白石は山路のドストライクタイプの若き教育実習生・望月かおりを清楚な魅力で演じ、吉原は坂間酒造に舞い戻ったカリスマ杜氏を威厳たっぷりに好演している。「上白石さんはプロデューサー陣からの熱烈なオファーで実現しました。存分に山路をときめかせてくれています。吉原さんは劇団四季の時代から何度も舞台を拝見していましたが、『23階の笑い』でバリバリにコメディもできる方なんだと知ってオファーさせてもらいました」(監督)他にも新旧大勢の豪華キャストが、「あの人がこんなところに!?」的な贅沢極まりない出演の仕方で登場するのも見逃せない。

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緊張感の中にも笑いがあふれる現場

撮影は22年10月に無事クランクイン。初日は山路の勤める小学校のシーンを、子供たちと賑やかに撮り進める。クラスの中にはアメリカとタイからの転入生もおり、いきなり“インターナショナル感”を醸しだすが、子供たちには国籍など関係ないらしく朝から元気いっぱい。松坂が教壇に立ち「山路で~す!みんな山路って呼んで下さい~!」とにこやかに挨拶すると、全員が即「山路~っ!!」と声を揃える姿に、初日ならではの緊張感もいい具合に和む。そこからは子供たちの集中力の限界を配慮してか、撮影は非常にハイペースで進んでいく。黒板に大きく書かれた【LGBTってなに?】の文字に対し、全員で「はぁ~っ?」と再び元気に声を揃える子供たち。「今のは、いい“はぁ~っ?”だったね」とスタッフも満足げな中、あっという間にこのシーンは終わり、続くシーンでは山路は松葉杖姿で再登場。松葉杖を慣らすためか何度も廊下を往復する松坂だが、撮影合間は子供たちのセリフの読み合わせに付き合ったり、「OK」が出る度に小さく拍手をする子供たちをニコニコ眺めたりと久々の『ゆとり』の現場を楽しんでいる様子。ここで披露されるのは、事前に子供たちが猛練習したというハカのパフォーマンス。小さな足を勇ましく踏み鳴らし、「カマテ!カマテ!ウ~ッ!ウ~ッ!」と一糸乱れぬ動きを見せる子供たちは可愛くも、絶妙にシュール。リハーサルでは優しく見守るようにその姿を見ていた松坂だが、いざ山路スイッチが入ると呆然と呆れたような表情に一変。その後もかしましい女子生徒たちを「静かに!同級生ABC!」と教師として一番言ってはいけない呼称で呼んでしまうなど、6年前と何ら変わらぬ山路の姿を見せてくれるのであった。

変わらぬといえば、今や2児の父となった一家の大黒柱でもある正和の頼りなさも全く変わらない。茜との深刻なセックスレスや、看板商品“ゆとりの民”の契約打ち切りの危機など悩みは尽きぬも、“レンタルおじさん”こと麻生に愚痴りながら、時にハイテンションに叫びまくり、ことあるごとに泥酔する姿には懐かしささえ感じる。そんな正和の見せ場のひとつでもあるのが、坂間家にメインキャストが全員集合しての、一大演説シーン。中国全土に坂間家の日常が配信されていたことが発覚し、激怒&動揺する面々を前に、正和が正直な思いのたけをぶちまける熱いシークエンスだ。台本にして7ページ近くある長尺のシーンでもあるが、リハーサルから全員が本番と変わらぬ熱演を見せる。言葉尻が重なる勢いの速いテンポで進む会話劇だが、当たり前のように誰ひとりNGを出す者はいない。最後は山路にとって忘れ難いある人物の名前が飛び出し、「はああああああーーーーっ!?」と突然絶叫する山路。骨折中の足を引きずりながらケンケン飛びで部屋を飛び出していく山路を、正和と茜が追いかけるという最初から最後までハイカロリーなシーンを、約6分間カットを割らずに一気にカメラを回していく。全員が肩で息をする中、渾身の「OK」を出した監督は、リハーサルの時点で「面白かったです!」と笑顔。撮影セッティング中も誰も離席せずに、机を囲んで昔話に花を咲かせる彼らは本当の家族のように仲睦まじい。山路が飛び出す一連では「あそこ、(笑うのを)私耐えられるかしら?どうしよう!」と中田が困ったように言うと、全員が笑顔になるひと幕も。少し時間が空くと監督のいるベースを役者陣が次々訪れ、積極的に相談や質問をぶつけていくのも水田組の特徴だ。結局本番もカットを割らず、すべて一連で撮影することが決定。誰よりセリフ量の多い岡田がスタッフに、「一連でいくんですか?」とおそるおそる尋ねると、曇りなき笑顔で「もちろんです!」と即答するスタッフ。「わ~っ!!」と笑顔で頭を抱える岡田だが、計3回戦となった(全体の)一連の撮影を完璧にやり遂げる。良質の舞台を見ているような臨場感あふれる一大シーンは、監督の「最高でした!」の声が響く中、滞りなく終了した。

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ゆとり3人の最高のバランス

“鳥の民”から“豚の民”にリニューアルされた居酒屋セット内で行われたのは、正和VSシネの飲み比べ対決。こちらも5ページ近いシーンのうえ、酒の場とあってやはりキャスト陣のテンションは高い。シネの醸し出す凄まじい気迫と、ヘラヘラしていたまりぶが意外にも芯を食ったセリフを放ちシネに対抗するなど、濃度の高い芝居場となる。韓国語、英語、日本語を混ぜながらのセリフが続く木南と、ネイティブな中国語のセリフがある柳楽は直前まで自主練習。いずれもその発音の良さには驚かされる。この日もやはりカットを割らずに進んでいく撮影。現場には心地いい緊張感が漂うが、監督が「野上さんのジョークだけが、このシーンでは救いですから!」とでんでんに声をかけると、一気に空気がほどける。どこまでがセリフでどこからがアドリブか判別しづらいほどナチュラルな会話の応酬が続くが、監督はあえてなかなか「カット」をかけない。必然的に役者陣の自由演技タイムに突入。ここぞとばかりに細かいアドリブを入れまくる芝居猛者たちの姿は、いつまでも見ていられるほど楽しげだ。撮影合間は全員で談笑し、「ふゆみんは、実は山岸の彼女ではないのでは?」といった説で爆笑する役者陣。ピリついたシネを完全体現する木南のオンオフの切り替えも鮮やかで、撮影合間はシネとは別人のような穏やかな笑顔で雑談に参加していたのも印象的だった。この後記憶をなくすほどに泥酔する岡田の芝居もリアルだが、ぐでんぐでんになっていてもセリフがクリアに遠方まで届くのはさすがである。ことあるごとに笑い合う岡田と柳楽の姿からも、互いの信頼関係の強さが垣間見られた。
「3人のバランスの良さは想像以上でした」と監督がしみじみ語る“ゆとり3人組”。映画版では3人が揃うシーンは決して多くはないが、やはり3人が同じフレームに入ると“ゆとり感”が一挙に押し寄せる。宮藤が「最も好きなシーン」と語るハロウィンの夜の3人の飲み会シーンは、都内の某商店街の一角を貸し切り完全ナイターで行われた。この日は岡田と松坂のクランクアップ日でもあったのだが、最後まで撮影はハード。自身の不倫疑惑にイライラしっぱなしの正和のご乱心から、まさかのアクションシーン(!?)へとなだれこむ。屋台の小さな椅子に仲良く座り、撮影が始まる直前まであれこれ雑談に花を咲かせる3人は実に楽しそう。「これおいしいね」と目の前のつまみを食べ合ったり、終始キャッキャッとはしゃいでる。カメラが回り始めるタイミングで、「集中集中!(笑)」と互いに言い合っている様子も微笑ましい。しかし普段はニコニコと穏やかな岡田だが、“泥酔正和スイッチ”が入ると見事に豹変。まりぶいわく「殺し屋みてえな目」で鋭く隣席のパリピ大学生を睨みつけ、「一生童貞!」「おっぱいスか!」といった、岡田が生涯この作品でしか発さないであろうパワーワードを、夜の商店街に全力で響かせまくる。その後の大乱闘もスタッフの完全なケアのもと、順調&安全に撮影は続く。最終的には暴れまくる役者陣の中に、手持ちのカメラで入りこむ撮影カメラマンのアグレッシブなワークが冴えわたり、無事撮影は終了となった。

全編の中で最も印象に残ったシーンは、「3人揃ったシーンです!」と口を揃えていた岡田&松坂&柳楽。役者として今後ますます円熟の域に入っていくであろう3人の、5年後、10年後……年を重ねた“ゆとり3人組”の姿を追いかけていきたいと切に願う。

文/遠藤 薫

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